きみと秘密を作る夜
コットンに沁みた鮮血が痛々しい。

顔に絆創膏を貼り、続いて腕に包帯を巻いていく。


怪我を手当てすることより、普通に話していることより、晴人がうちの玄関にいる方が変な感じだった。

かつては窓からしか出入りしなかった、あの晴人が。



「ばあちゃんは?」

「老人会の旅行に行ってるよ。入院して以来、やっと参加できたからね。嬉しそうだったよ」

「元気になったんだな」

「うーん。波があるけどねぇ。でも涼しくなって、前よりは過ごしやすいみたい」

「よかったじゃん」

「そうだね」


晴人は当たり前みたいに祖母の心配をしてくれる。

未だにそういう些細な優しさに気付かされるから、どうやったって嫌いになりきれないのだと思った。



「できた」


包帯を巻き終え、不意に顔を上げると、近い距離で目が合った。


途端にあの頃のことを思い出す。

晴人さえいてくれればいいと思っていた、あの頃のことを。



「ねぇ。晴人」


しかし晴人は、私が何か言うより先に、立ち上がる。



「助かったよ。これでもう貸し借りなしだな」

「ちょっ、待ってよ! まだおばさん帰ってないのにどこ行くつもり!?」

「別にセックスするわけでもねぇのに、お前とこれ以上、一緒にいても、無意味だろ」


切って捨てるように言い、晴人は出て行った。



確かに、今更、私と晴人が一緒にいたところで、あの頃のように戻るわけじゃない。

だけど、『無意味だ』と言われたことが、なぜだか無性に悲しかった。


私は遼のことが好きなはずなのに、なのに晴人に何を求めているのか。

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