きみと秘密を作る夜
急いで地元に戻り、スーパーでの買い物もそこそこに、荷物を抱えて家に帰った。
祖母は、自室の布団の中にいた。
「おばあちゃん」
恐る恐る声を掛けてみると、うつろに目を開けた祖母は、私を見て取ると、にっこりと笑う。
「おかえり、リナちゃん」
「おばあちゃん。どうしたの? どこが悪いの?」
「どこも悪くないさ。ちょっとドーナツ作りで張り切りすぎて、疲れたから横になってただけだよ」
少し前までは、トイレに行くのもやっとだった祖母。
いくら今はわりと元気を取り戻したとはいえ、すぐに無理がたたるのは当然だ。
私は顔を覆ってうなだれた。
「ごめん、おばあちゃん。私があの時、出掛けたばっかりに。ついててあげられなくて、本当にごめん」
「何を言っているんだい。リナちゃんは何も悪くないよ。それよりお友達はもう大丈夫なのかい?」
祖母よりカレシの機嫌を取ることを優先した自分。
罪悪感に打ちのめされて何も言えない私に、祖母はまた笑う。
「来週も老人会の集まりがあるんだ。カラオケ大会だから絶対に参加するって、この前、みんなに宣言してしまったんだよ。だからそれに備えて今は休んでるだけさ」
「おばあちゃん……」
私は、うなづくことしかできなかった。
「じゃあ、おばあちゃんが元気になったら、今度こそ一緒にドーナツ食べようね?」
「そうだね。指切りをしようか」
祖母の、曲がって硬くなった小指に、自分の小指を絡める。
「ゆーびきーりげーんまーん」と歌いながら、私たちは子供みたいに指切りした。