きみと秘密を作る夜
母は、ゆっくりと、言葉を選ぶように私に伝えた。

しかし私はそれを受け止められない。



「リナ。大丈夫よね? 頼むわよ?」


電話が切れた。

とにかく母の病院に行かなくてはと、ふらふらと外に出る。


が、そこからどうすればいいのかわからなかった。



自転車?

いや、バスの方が早いかな。

でも次のバスの時刻がわかんないや。

タクシー?

あそこまで行くのに料金いくらなんだろう。



早く行かなくてはと思う一方で、現実を拒否するように、私の足は一歩も動かない。



家の前で立ち尽くしていた時、ブオン、というエンジン音が。

顔を上げると、私の前で、バイクが止まった。



「晴人……」


私は、すがるようにその名を呼んだ。

晴人は、ただ事ではない様子の私に気付き、眉根を寄せてバイクから降りる。



「おい、どうした? 真っ青だぞ」

「お、おばあちゃんが……」

「ん?」

「……おばあちゃんが倒れたって」


言った瞬間、ガクガクと体が震え始めた。

晴人はひどく驚いた顔をして、でもすぐに私の腕を引く。



「乗れ。送る」


ほとんどなすがままみたいに、晴人のバイクの後ろに乗せられた。



「中央病院でいいんだな? 掴まってろ。ぶっ飛ばすから、落ちんじゃねぇぞ」


言うが先か、晴人はまたブオンとエンジンを吹かし、急旋回したかと思った瞬間、アクセルをひねった。

衝撃を感じるほどの急加速だったが、怖いと思えるほどの余裕はなかった。


私は必死で晴人の体にしがみ付きながら、ただただ祖母の無事だけを祈り続けた。

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