きみと秘密を作る夜



そして迎えた、9月1日。

新学期の登校日。



中学校は自転車で40分の距離にある。

1学年に3クラスしかないらしい。


夏休み中に一度、挨拶のために訪れてはいたが、今日はその時とはまるで違った緊張感があった。



「転校生の小泉 里菜子さんだ。みんな、仲よくするように」


担任の先生に紹介されて、教室はざわついていた。

あまりの注目の的に、委縮しながらも、私は努めて笑顔で「よろしくお願いします」と頭を下げる。


窓際の席に、晴人はいた。

見知った顔と同じクラスになれたおかげか、思わずほっと安堵した自分がいる。



「小泉の席は一番後ろだ」

「はい」


言われた通りの席に向かう。

転校生が珍しいのか、一挙手一投足をクラス中に凝視されて、何だかムズムズした。


晴人はそんな私がおかしかったのか、口角だけを上げ、笑いをこらえているような顔だった。


それでもとにかく、第一関門は突破した。

が、息つく暇もなく、休み時間になった瞬間、私はクラスメイトたちに囲まれた。



「ねぇ、どこからきたの?」

「前の学校ではなんて呼ばれてた?」

「わからないことあったら何でも教えるからね」


わらわらと、人が集まってくる。

圧倒されてしまいそうだ。


晴人はこちらの輪には混ざらず、興味もなさそうに漫画を読んでいた。

まぁ、今更、私を囲って聞きたいようなこともないだろうけど。



「あ、じゃあ、『リナちゃん』って呼んでいい?」

「もちろん」


クラスメイトの言葉に、大きくうなづく私。



自慢じゃないけど、外面はいい。

人見知りだってしたことないし。


それにみんな気さくだから、きっと私はここで、上手くやっていけると思う。

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