きみと秘密を作る夜
「リナ。こっちよ」


母はもう晴人の方を見ないまま、きびすを返した。

どうしたものかと思ったが、私も今は祖母の方が心配だった。


自動ドアの開いた先にはたくさんのベッドが並んでいて、そのうちのひとつに、祖母はいた。


術後のためか、頭には包帯が巻かれ、小さな体にはたくさんの機械が取り付けられている。

今朝、私に『いってらっしゃい』と笑ってくれた、祖母が。



「おばあちゃん……」


震える声で呼びかけたが、しかし祖母に反応はない。



「脳の血管が切れたのよ」

「え?」

「もちろん手術は成功したんだけど、おばあちゃんの体力が持つかどうか。もし助かっても、下手をすれば意識が戻らないまま植物状態になるかもしれないし、意識が戻ったとしても確実に後遺症が残るわ。でも今度はもう、リハビリなんて無理でしょうし」


顔を覆う母。

母にとっては祖母は、自分を産み育ててくれた、母親だ。



「悔しいわね。私は看護師なのに、こういう時に何もできないんだから」


初めて聞いた、母の弱音。

たくさんの症例を見てきた看護師の母だからこそ、楽観的には考えられないのだろう。


私は、何も言えないまま、祖母の手を握ることしかできなかった。




それから5時間後、祖母は静かに息を引き取った。

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