きみと秘密を作る夜
ゆっこは私の手を握る手に、ぎゅっと力をこめる。

そして意を決したように言った。



「あのさ、リナ」

「うん?」

「おせっかいかもしんないし、言うべきかどうか迷ったんだけど、でもやっぱりこういうことって伝えておいた方がいいかと思って」

「うん。何?」


何なんだろう。

ゆっこのまわりくどい言い方に私が眉根を寄せた時、



「ハル、きてるよ」


と、代わりに竹田くんが言った。

私は驚きに目を見開く。



「俺らがきた時、下の入り口の前で、ハルがひとりでぽつんと立っててさ。『中に入らないのか?』って聞いたら、『俺が行ったらまたあいつが余計な噂されるだろ』って」

「………」

「『通夜の席で誰もそんなこと言わないよ』って俺らは説得したんだけど、それでもハルは、かたくなに中には入ろうとしなかった」


聞いた瞬間、考えるより先に、私は足を踏み出していた。

急いで廊下を突っ切り、エレベーターではなく階段を駆け下りて、玄関ロビーを抜ける。


息を切らしながら外に出ると、暗闇の中に、背中が見えた。



「晴人!」


私の声が、夜に響く。

足を止め、振り向いた晴人のところまで走った。



「ねぇ、待ってよ!」


逃がさないように、その腕を掴んだ。



「何できたの!? 何で中に入らずに帰っちゃうの!? 全然わかんない!」


勢い任せにわめく私。

晴人は小さく息を吐いた。
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