きみと秘密を作る夜
「お前のことが心配だった。あと、最期にばあちゃんに挨拶したかった。でも俺にはそんな資格ないかなとか、ぐるぐる考えながらここまできたけど、やっぱり何か急に怖くなって」


晴人は何を恐れているのだろう。

暗闇の中、晴人の目が私に向く。



「ごめんな」

「え?」

「ばあちゃんが病院に運ばれたあの日、集中治療室にいるって聞いて、だったら大丈夫なんだろうなって思った。でも、結果として、ばあちゃんは亡くなった。あんなこと、気休めにでも言うべきじゃなかったのに」

「でもそれは、私のためにでしょ?」


事実、晴人が連れて行ってくれたから、私は病院まで行けたのだ。

ひとりでだったら、きっと無理だった。


私は、震える息を吐いて闇夜を仰ぐ。



「『資格がない』っていうなら、私の方だよ」

「何が」

「私は最低な孫で、本当はおばあちゃんに合わせる顔ないし、最期を見送る資格もないのに」


泣かないように顔を上げたのに、なのに涙が溢れそうになる。

私なんかが泣いちゃダメなのに。



「私ね、おばあちゃんが作ってくれたドーナツ、食べられなかったの。せっかく、元気だったのに。あれが最後だったのに」

「………」

「なのに、嘘ついて、遼に会いに行った。私はおばあちゃんの行為を裏切ったのに」


そこまで言った瞬間、晴人に抱き締められた。
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