きみと秘密を作る夜
出会い
「転校しても、リナのこと忘れないからね」
お決まりの台詞に、私は「ありがとう」とだけ返したことを思い出す。
でもさ、どうせみんな、すぐに私のことなんて忘れるよね?
次の日にはもう、私なんて『過去の人』だよね?
「ほら、リナ。そんなとこに突っ立ってないで、これ、早く2階に運んでちょうだい」
母に促され、私はため息混じりに段ボール箱を持ち上げた。
垂れた汗が箱に染みる。
暑すぎて死にそうだ。
真夏に引っ越し作業なんてするもんじゃないと、本気で思う。
「リナちゃーん。麦茶淹れたから、下りてきて飲みなさーい」
下から呼ぶ祖母の声に、息をつく。
古い家独特の匂い。
今日から私はここで暮らすのか。
何だかまだ全然、実感はないのだけれど。