きみと秘密を作る夜
「生きてるんだもん。私だって怪我くらいするよ」

「そういうのとは違うわよ」

「違わないよ。じゃあ、お母さんは、私が転んで擦り傷作ったら、靴を恨む? 道路を恨む? そんなバカなことしないよね? 同じことだよ。私が勝手に足を滑らせただけ。晴人は何も悪くない」


はっきりと言う私。

母は少しの戸惑いを見せた後、大きなため息を吐きながら、目を伏せた。



「リナの言い分はわかったわ」


母は静かに言葉を手繰り寄せた。



「確かに、仕事ばかりでちっともあなたのことを気にかけていなかった私にも責任があるわよね。ハルくんだけを恨むのは筋違いだわ」

「お母さん……」

「本当に、私はダメな母親よね。わかっているはずなのに、どうしても上手くできない。ごめんなさいね」


母の口から謝罪の言葉なんて、初めて聞いた。


何だか不思議なものだと思った。

母子ふたりになってやっと、私たちは互いの気持ちを考えるようになったのだから。



「もういいよ。それより食べようよ。ね?」


私の言葉に、母は困ったような笑みを向けた。

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