きみと秘密を作る夜
どうにか地元まで帰ってきたけれど、駅の改札を出てすぐに、ひどい眩暈に襲われ、私は壁に寄り掛かった。
遼の言葉が、ぐるぐると頭の中をまわる。
自分がこれからどうすべきなのかが全然わからない。
どれくらい、そこでそうしていたのか、突然、
「里菜子?」
と、背後から呼ばれ、弾かれたように顔を向けた。
そこには怪訝に私を見る晴人が。
「どうした? って、お前、すっげぇ顔色だけど、大丈夫かよ?」
「え? あ、いや……」
「つーか、顔色もだけど、何かやつれたよな。ちゃんと飯食ってんのかよ」
地元だから仕方がないとはいえ、今、晴人にだけは会いたくなかったのに。
「大丈夫だよ。あんまり食欲ないだけで」
言って、顔を逸らし、早くその場を立ち去ろうと思ったのに、
「それは大丈夫じゃないっていうんだよ」
と、舌打ち混じりに晴人は言って、いきなり私の腕を引いた。
「こいよ。ちょっと付き合え」
「は? ちょっ」
突然のことにひどく驚いて、けれど貧血で力が入らない。
ほとんどなすがままみたいに引っ張られる私。
どこに連れて行かれるのかと思っていたら、晴人はそのまままっすぐ歩き、駅前にある、『定食よしだ』と書かれたのれんが掲げられた引き戸を引いた。
「あら、いらっしゃい。久しぶりだねぇ、ハルくん」
50代くらいのおばさんだ。
この場所に定食屋があったことは知っていたけれど、でも入ったのは初めてだった。
古い造りの店内で、私がきょろきょろしていたら、
「その子はハルくんのカノジョかい?」
と、おばさんは突っ込んでくる。