きみと秘密を作る夜
「違ぇよ、恵子さん。ただの同級生だよ。こいつは小泉のばあちゃんの孫」

「……あぁ」


恵子さんと呼ばれたおばさんの、今まで好奇のようだった目の色が、その瞬間に憐みのように変わったのがわかった。

私を見て、泣きそうな顔になる。



「辛かったねぇ。わかったよ。座りな。今日はお代はいいから、好きなだけ食べていきな」


何が何なのかわからない。


カウンター席へと促され、無理やり座らされた。

晴人も当たり前みたいに私の隣へと座る。



恵子さんはカウンターの中で、鍋をかき混ぜながら言った。



「狭い町だからねぇ。小泉のおばあちゃんのことはよく知ってるよ。なのに、うちは店を休めないから、お葬式にも行けなくて、申し訳なかったね」


私は思わず身を乗り出した。



「おばあちゃんのこと、知ってるんですか?」

「当然だよ。小泉さんは、昔はこの町で一番、お菓子を作るのが上手だって、有名だったんだ。それで近所の主婦たちが習いに行ったりしてね」


知らなかった、祖母の一面。

恵子さんは感慨深そうに言う。



「今は孫自慢ばかりするって有名だったけどね。『うちの孫は世界で一番可愛いんだ』、『リナちゃんはとっても料理が上手なんだよ』、『どこに出しても恥ずかしくない子だ』って。会う度に同じこと聞かされるって、みんな笑ってたよ」

「おばあちゃん……」


恵子さんは、優しく笑って私を見た。



「あんたは立派だよ。都会からやってきて、最初は変な目で見るやつもいたようだけど、誰よりも孝行な孫だよ。この町の人間は、ちゃんとわかってるから、あんたは胸を張っていいんだからね?」
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