きみと秘密を作る夜
「いや、マジで、お前も食ってみろよ。すっげぇしょっぱいから」


横やりを入れてくる晴人と、「ハルくんには食べさせないよ」と怒る恵子さん。

私も思わず笑ってしまう。


私たちが笑っていたら、ふと恵子さんは、遠い目をして言った。



「しかし、ハルくんは、すっかり大きくなったねぇ。最初にうちにきた時は、確か小学生だった」

「恵子さん。その話はいいよ」

「幽霊みたいにぼうっと駅前に立っててね、あんまりにも子供らしくない顔してたから、心配になって声を掛けたんだよ。『うちでご飯食べていきな』って。あとで知ったんだけど、あの時、ハルくんは」

「恵子さん!」


大声で、晴人は恵子さんの話を制した。

過去を見ていたような恵子さんは、はっとしたように顔を戻した。



「ごめん、ごめん。あんな悲しい話は、思い出しちゃいけないね」


悲しい話。

通夜の夜にも思ったけれど、晴人はやっぱり何かを抱えているのだろうか。

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