きみと秘密を作る夜
迷情
遼と距離を置いたことは、あさひには言わなかった。
そうでなくても祖母のことで心配させてしまったのに、これ以上、心配の種を増やしてしまうようなことは言いたくなかったから。
誰とも連絡を取らずにいる、日曜日。
母とふたりで休日にゆっくり家にいることが、何だか不思議な感じだった。
今までは母が休みだと、顔を合わせたくなくて遼と会ったりしていたが、もうそんな必要もない。
「お母さん、最近やっと夜勤減ったよね。よかったね」
「そうね。人も増えたから、シフトにも余裕が出て、ずいぶん楽になったわ。おかげで、たまに時間を持て余すこともあるけれど」
「こっちにきてから働き詰めだったんだから、いいんじゃない? 趣味見つけるとかさ、色々やればいいじゃん。家のことなら大丈夫だから」
「あら、すっかり大人みたいなこと言って」
母は茶化して笑ったが、しかしどこか嬉しそうな顔だった。
私は「さーて」と腕まくりして、キッチンに立つ。
「何をするつもり?」
「薄力粉とかベーキングパウダーとか、消費期限が近いから、何かに使わなきゃと思って」
「ホットケーキ? それともパンでも焼く?」
「うーん。おばあちゃんなら何に使うと思う?」
「そりゃあ、おばあちゃんなら、ドーナツでしょ」
「だよねぇ?」
私と母は、顔を見合わせて笑う。
「手伝うわ」と母も言い、横に並んでキッチンに立った。
少しのくすぐったさはあったが、こういう時間も悪くないなと私は思った。