きみと秘密を作る夜
残りの粉を使い切ったら、大量のドーナツができあがってしまった。
祖母が生きているうちに一緒に食べたかったけれど、でももうそれは叶わない。
「これ、さすがにふたりじゃ食べきれないわねぇ。少しお仏壇にお供えするとしても、残りは誰かにおすそ分けでもしましょうか」
「そうだね」
いつもなら真っ先に遼のことを思うが、しかし今は距離を置いている。
「お母さん、何個か職場に持って行こうと思うけど、リナはどうする?」
「私も、友達に持って行くよ」
「そう? じゃあ、取り分けといてちょうだいね」
少し迷ったが、晴人に渡そうと思った。
戸棚から紙袋を取り出し、いくつかドーナツを詰める。
それを手に、急ぎ家を出た。
日曜日の昼間は、晴人は遼と一緒にバイトのはずだから、晴人の母にでも託しておけばいいだろうと、あまり深く考えずに隣家のチャイムを押した。
しばらく待っても反応がなく、誰もいないのかなと思った時、ガチャリとドアが開く。
そこに立っていたのは、晴人の母ではなくて、晴人だった。
「……里菜子?」
晴人はひどく驚いた顔をして、でも次には怪訝に「何?」と聞いてくる。
まさかいるとは思わなかった。
寝起きなのか何なのか、ひどく機嫌が悪そうだけど。
「あ、えっと。ドーナツ作ったから、おすそ分けに? おばあちゃんみたいに上手く作れたかはわかんないけど」
「何で?」
「え?」
「何でそんなもん、俺に持ってくんの?」