きみと秘密を作る夜
祖母との思い出。

百のものより価値があること。



「私だって未だに悲しいわよ。だけど、きっとおばあちゃんは、私たちが悲しみ続けることを望んではいないと思うの」


母はそう言って、古びた祖母のノートを開いて見せた。

ノートの最初のページには、『迷ったら、笑顔になれる選択を』と、祖母の字で書かれていた。



「おばあちゃんもね、若い頃はずいぶんと苦労していたみたいよ。でも、いつもこの言葉を頼りに生きてきたんですって。子供の頃にその話を聞かされたことを、昨日、ふと思い出したのよ」


迷ったら、笑顔になれる選択を。

そういえば祖母は、いつでもどんな時でも、常に笑顔だったっけ。



「わかった。私も片付け手伝うよ」


お坊さんの話だと、祖母は昨日、天国へと旅立ったらしい。

だったらこれで、ひと区切りなのかもしれないと、私も思い直したのだ。



忘れるためじゃない。

祖母との思い出を胸に、ちゃんと前に進むために。

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