きみと秘密を作る夜
テスト期間中は、午前中で学校が終わる。
早くに帰宅して、翌日のために勉強していたが、どうにも集中できず、私は気分転換のために家を出ることにした。
「どこ行くのー?」
玄関先で靴を穿こうとしていたら、夜勤明けで寝起きの母に声を掛けられた。
「ちょっと散歩」
「どこまで行くの?」
「散歩なんだから、近所じゃん。どうしてそんなこと聞くの?」
「不審者が出るんですって」
不審者?
思わず私は眉根を寄せてしまう。
「何それ? こんな田舎で?」
「先週、大学生の女の子が変な男にあとをつけられたらしいの。他にも、見たことのない赤い車が止まってたとか。回覧板もまわってきたし、公民館の掲示板にも注意書きの紙が貼ってあったわ」
「マジで?」
「リナだって女の子なんだし、このあたりは街灯も人も少なくて危険よ? 何かあってからじゃ遅いわ。夜はあんまり出歩かないようにしてちょうだい」
「わかったよ。ちゃんと日が暮れる前には帰るから」
まだ夕方とも呼べないような時刻だ。
家を出て、坂を下り、海の方に行ってみることにした。
祖母とよく歩いた道。
未だに祖母がいない毎日には、違和感ばかりだけれど。