きみと秘密を作る夜
あてもなく海岸線をふらふらと歩いていたが、何だかすっかり疲れてしまい、私は休憩がてら、遊歩道にあるベンチに腰掛けた。
ぼうっと海の果てを探す。
水面の輝きは、ずっとずっと変わらないのに。
「……変わったのは私だよねぇ」
あの夏の日から、たった2年と少ししか経っていないのに、なのに私の世界はまるで変わってしまった。
私にとっての笑顔になれる選択って、一体、何なのだろう。
答えのない問いを繰り返しながら顔を覆っていると、
「里菜子?」
と、背後で私を呼ぶ声がした。
顔を見るまでもなく、相手はわかる。
私を『里菜子』と呼ぶのは、この世界でたったひとり。
「晴人……」
こちらに近付いてくる晴人の腕には、なぜか茶色い子犬が抱かれていた。
子犬のくりくりとした目に見られ、驚きと困惑で、私は逃げることも忘れていた。
「その犬、何? 飼い始めたの?」
「違ぇよ。母さんが拾ってきたんだよ。どうしても放っとけなかったみたいで、『里親見つけるまでだから』って。挙句、俺がテスト期間だとわかったら、『散歩よろしく』って、押し付けてきて」
そうは言いながらも、晴人は子犬をしっかりと腕の中に抱いたままだ。