きみと秘密を作る夜
「そんなもんなぁ、どんなに避けてたって、こんな狭い町で会わないようにするなんて、物理的に無理なんだよ」


それもそうかもしれない。


狭い町で、私たちは隣家に住んでて。

どちらかが引っ越しでもしない限り、どんなに避けていても、こんな偶然はいつかは必ず起こっていただろう。



晴人はゆっくりと、リードで繋がれた子犬を、砂の上に降ろした。



「なぁ、里菜子」


名前が呼ばれる。

あの頃と変わらない響きが悲しい。



「何よ?」

「暇してんなら俺の昔話に付き合わねぇ?」


それはつまり、晴人の過去の話ということか。


聞きたいような、聞きたくないような。

でも、聞いたら後戻りできなくなりそうで、怖かった。



「知らないよ。嘘つき男の話になんて付き合ってらんないから」


言って、立ち上がった瞬間、腕を掴まれた。



「待てよ。もう全部ちゃんとほんとのこと言うから」


晴人の目が真剣だったから、私はその腕を振り払えなかった。

結局、何も言えないまま、再び私がベンチに座ると、晴人も人ひとり分の間を取って私の隣へと座る。


しばらくの沈黙の後、晴人は言葉を選ぶように口を開いた。

< 224 / 272 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop