きみと秘密を作る夜
しかし、幸せの絶頂にいた、2ヵ月後のある朝のこと。



「気づいた時には星矢は息をしていなかった」


新生児突然死症候群。

健康だったはずの乳児が、睡眠中に予期せず突然死する、原因不明の病態のことだ。


いつもと何も変わりない朝に、突然、家族は愛する赤子を失った。



「原因がわからないんだから仕方がないって医者には説明されたけど、頭ではわかってても、感情はそう簡単じゃない。母さんは『私の所為だ』っていつも自分を責めてたし、何かにつけて泣き崩れてた」


晴人は現実を受け入れられずに茫然自失となり、そして両親は事あるごとに喧嘩を繰り返すようになった。


当然だろう。

家族の一部が欠ければ、その形はいびつに歪む。



「それでも俺はキャプテンだからって必死でサッカーを続けてたつもりだったけど、心ここにあらずって感じだったんだろうな。練習中にチームメイトとぶつかって、靱帯損傷の大怪我をしたんだ」


入院は1週間だったが、またサッカーができるまでにはきちんとしたリハビリが必要だった。

しかし晴人は、失意の中、それを拒んだのだ。


有名私立中学へのサッカー推薦の話も本決まりになりかけていたのに、「もうサッカーは辞める」と言い捨てた。


本来ならば両親が説得するところだが、父親にも母親にも、それだけの気力がなかったのだろう。

家族を失った現実を受け入れられていない中で、誰もが冷静ではなかったのかもしれない。



「好きにすればいい」としか言われなかった晴人は、そのままサッカーを捨て、地元の中学へと進んだ。
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