きみと秘密を作る夜
「中学生になってさ、いつまでもくよくよしてらんないし、『星矢は星になったんだ』って自分に言い聞かせて、俺なりに前を向こうと頑張ってたんだよ」


弟を失い、サッカーを捨てたが、新しい生活の中で、晴人は必死で現実を受け入れようともがいていた。

足は、普通に走る分には何の問題もないし、星矢の分までしっかり生きなきゃと、晴人なりに頑張っていたのだ。


が、それも長くは続かない。



「親父の浮気現場を見たんだ」


前に晴人は話していたっけ。


『一緒にホテル入って行くの見たし』と。

『あの日はさすがに、家帰って吐いたなぁ』と。



両親は顔を合わせれば喧嘩を繰り返していた。

泣くばかりの妻、頑張っていたサッカーを辞めた息子、そして赤子の遺影が待つ家に帰りたくなかったのだろう父親は、現実逃避するように出張を増やし、そのまま外に癒しを求めるようになってしまったのかもしれない。



「家族で支え合って、一緒に乗り越えるべきだったと、俺は思う。『でも家族でいるからこそ、家でお父さんと向き合っていると、星矢の死を思い出してしまって苦しかったの』って、あとで母さんは言ってたな」


一度いびつに歪んでしまった形は、もしかしたらもう二度と、元のようには戻せないのかもしれない。



「『あの頃は、どうすることもできなくて、地獄だったわ』って。『だから私はお父さんの浮気を知っても、責める気にはなれなかったのよ』ってさ」
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