きみと秘密を作る夜
しかし、晴人は違った。

理由はどうあれ、大好きだった父親の裏切りを知ったのだから。


晴人は学校ではどうにか普通に過ごしていたが、家に帰るとスイッチが切れたみたいに疲れ、喋るのも嫌になって、常に部屋にこもるようになった。



「もう誰の何を信じればいいのかわからなかった。みんな気持ち悪くて大嫌いだった。全員死ねばいいと思ってた。苦しくてたまらなかったんだ」


弟を失い、サッカーを捨て、父親の浮気を知った晴人は、まだ中学1年だ。

そんな子供の心には、あまりにも負担が大きすぎたのだろう。


しかし、きっとずっと一生そのままだと思いながらただ毎日を繰り返していただけだったある日、それが一変する出来事があった。



「お前が隣に引っ越してきた」


あの日、この海で、私と晴人は出会った。

第一印象は最悪だったけれど。



「ねぇ、何で私だったの?」


思わず口を挟んでしまう。

晴人は横に座る私を一瞥し、ふっと笑って言った。



「わかんねぇけど、あの頃、お前と見る景色はいっつもキラキラしてたんだ。そんで、つまんないこと言い合って笑うのが楽しくて。きっと他人から見たらすっげぇくだらないんだろうけど、俺はあの時間に救われてたから」
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