きみと秘密を作る夜
「あの日、里菜子は血を流して倒れてて、呼び掛けても返事もしなくて。慌てて抱き上げようとしたらびっくりするくらいに重くて、冷たくて」

「………」

「俺は震えが止まらなかった。星矢の時のことを思い出してさ。もしかしたら俺の所為で里菜子が死ぬかもって」


その恐怖心は、理解できる。

あの日に見た蒼白な晴人の顔を思い出すと、悲しくなった。



「あのあと、家に帰ってから、衝動的に天体望遠鏡を壊して、星の図鑑も捨てたんだ。こんなものがあったからいけなかったんだ、って思った。そんなことしても自分への罰にもならないのにな。それで、『俺もう二度と里菜子とは会わないから』って、母さんに言って」


晴人は、もしかしたら、いつも自分を責めていたのかもしれない。

弟が死んだことも、父親が浮気をしていることも、そして私が怪我をしたことも。



「晴人は悪くないよ」


声を震わせる晴人にそれだけ言う。

晴人は私へと顔を向け、そしてこちらへと手を伸ばしてきた。


晴人の手は、迷いを帯びながらも、私のひたいの傷に触れる。



「里菜子は俺といたら不幸になる。俺はもう二度と幸せなんか望まないから、だから里菜子だけは幸せになってほしいって、ずっと願ってた」


だから縋り付いた私を拒絶したの?

そんなことのために、矢野さんと付き合ったの?
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