きみと秘密を作る夜
「私の気持ちなんか置き去りじゃない。ひとりで決めて、勝手に目の前からいなくなって」

「あぁ。でも、いくら他のやつと付き合っても、余計にお前のこと思い出すばっかだった。最低だよな」


本当に、最低だよ。



「晴人と一緒の高校に行きたかったのに」

「俺だって行きたかったけど、あんな状況で里菜子と一緒の高校選べねぇし。だから、もしいつか里菜子が何か困ったら、次は連れて逃げようと思って、資格取れる工業高校を選んだんだよ」


私を連れて逃げる、って?



「中学卒業したら働けるだろ? その時に資格あったら便利だし。だからバイクの免許も取ったんだよ。バイトしまくって逃走資金も貯めたし。そんでいざとなったらふたりでこの町から離れてさ、働きながら一緒に暮らしたら、もう誰に何言われることもねぇじゃん?」

「だったらどうしてもっと早くに」

「言いたかったよ。でも、あんなことしといて、何もかも、ばあちゃんすら捨てて俺を選べなんて、実際、言う勇気ねぇだろ」


何もかも、私のために?

そんなの言ってくれなきゃわからないよ。



「ずっと、私がどんな気持ちだったか」


悔しさに唇を噛み締めると、涙が溢れてくる。

泣きたくなんかないのに。



「泣くなよ」

「泣いてないよ」

「泣いてんじゃねぇかよ」


言って、晴人は困ったように笑いながら、私の涙を拭う。



「俺の所為?」

「自惚れないで」
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