きみと秘密を作る夜
「お前、最初にここで会った時も泣いてたもんな。何か見たことない女が泣いてて、それが西日の海でキラキラしてて、あんまりにも綺麗だったから、びっくりして声掛けたんだよ」

「嘘じゃん。泣いてる私に向かって『キモい』って言ったくせに」


涙を拭ってくれる手を払いながら口を尖らせる私を、晴人はぶはっと吹き出したように笑う。



「泣くな。お前はずっと笑ってろ」


『笑ってろ』と、晴人は言った。



「ふざけないでよ。私、勝手なことばっか言う晴人に怒ってんだよ? 笑えるわけないじゃん」


しかし晴人は、今度は声を上げて笑う。

何がそんなにおもしろいのか。



「バカ!」

「あ? バカはお前だよ。バーカ」

「晴人のがバカだから!」


言い合っているうちに、何だか本当にバカらしくなってきた。

私も、今は少しだけすっきりした気分だ。


晴人の目は、彼方を探すように、再び水面へと向けられた。



「なぁ、あの日の流星群、覚えてるか? すごかったよな」


夜空に無数の筋を作った、あの日の流星群。

私はそれを、晴人の瞳の中で見ていた。


目を閉じると、今でもそれが鮮明に焼き付いていて、苦しくなる。



「でももうお前は全部忘れていいからさ。そんで遼と幸せになれよ」

「だったらどうして今更、こんなこと」

「仕方ねぇじゃん。ばあちゃんが死んで、お前が泣いてんの見たら、もう自分の気持ちとか誤魔化せなくなったんだよ。遼はいいやつで、里菜子も今は幸せなんだってわかってんのに、ほんと俺は勝手だよな」
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