きみと秘密を作る夜
「遼。私は」


しかし、言い掛けた言葉を遮り、息を吐いて体を起こした遼は、私に背を向けた。



「麻衣って子に話を聞いて、最初は怒りが大きかった。でも、時間が経つにつれて、妙に納得する部分もあったんだ。バーで先輩に絡まれた時だって、リナを助けたのはハルだったし。ハルがあんなに感情を表に出したのは、俺が知る限り、後にも先にもあの時だけだ」


鼻をすする遼。



「『リナの過去に何があったのか、俺は知らない』、『だけど、不安なことがあるなら、全部言ってよ』、『そんなの、俺が全部、蹴散らすからさ』って、言ったのにな」

「………」

「もう無理だよ。こんなんでやり直せるわけがない。俺はリナの過去に負けたんだ」


そんなことない。

そんなわけない。



「ずっと色のない世界にいた私を救ってくれたのは遼だよ。たとえ言い訳に聞こえても、遼といて楽しかった気持ちは本物だから」


泣くな。

私に泣いていい資格はない。



「気づけよ。リナの俺に対する言葉はもう、過去形なんだよ」


言われた私ははっとする。



「もういいよ。別れたくて呼んだんだ。出て行けよ。これ以上、俺を情けない男にさせないでくれ」


遼はもうこちらを見ない。

私は唇を噛み締め、荷物を手に立ち上がった。

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