きみと秘密を作る夜
花冷え
茶色ばかりだった山の木に、徐々に緑が含まれ始めた、3月初旬。
なのに、今朝は真冬に逆戻りしたような寒さだった。
「……明け方頃に雪がちらついた地域もあり、今日は全国的に寒い一日となる予報です。寒暖差で風邪を引くこともありますので、お出かけの際にはしっかりとした防寒を忘れずに……」
家を出る間際、テレビから聞こえてくるお天気お姉さんの声に足を止め、私は二階へと引き返した。
階段を駆け上がって自室に戻り、少し前にクローゼットにしまったはずのマフラーを探す。
が、どこにもない。
「お母さーん! 私のマフラー知らなーい?」
私の声に、母も部屋へとやってきた。
「どうしたの?」
「今日、ずっと寒いみたいだから、マフラーしていこうと思って探してるんだけど、どこにもないんだよ」
「赤いやつ? それなら前に私がマフラー落としたって言った時に、リナが使わないからって貸してくれたじゃない」
「あ、そうだ。返してよ」
「それが、今は職場のロッカーに置いたままなのよ。ごめんなさいね」
「えー?」
この寒い中、マフラーなしで登校しろと言うのか。
思わず睨むと、母は慌てて私のクローゼットを探り始めた。