きみと秘密を作る夜


地元に戻って電車を降り、駅から真っ直ぐ歩いた先にある、のれんの掲げられた引き戸を引いた。

『定食よしだ』だ。



「あら、リナちゃん。おかえり」

「ただいまー。恵子さん。着替えたらすぐに私も仕込みするからねー」


奥の部屋に荷物を置き、着替えるために上着を脱いだ。




私と母がふたりでこの店を訪れたのは、1月のことだ。

前に、晴人と一緒にご馳走になった恩返しのつもりだったが、そこでバイトを募集しているのを知り、どうしてだかやってみたいと強く思った。


母に相談すると、最初は難色を示していたが、でも成績を下げないことを条件に、社会勉強として許してくれた。


それからは、放課後や土日にバイトに入り、仕込みの手伝いや接客などをこなしている。

勉強との両立は大変だったが、それでもお客さんと仲よくなったり、たくさんのレシピを教えてもらえることが嬉しかった。



「リナちゃんは手際がいいから助かるよ。小泉さんの孫だからだろうかね。筋がいいんだよ」


野菜を切っていた私に、恵子さんが言う。



「将来は料理関係の道に進むのかい?」

「んー。まだ全然考えてないけど」

「でも田舎だと働ける場所も少ないから、そうなるとリナちゃんも都会に出て行ってしまうのかねぇ」


ぼやく恵子さん。

私は笑った。
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