きみと秘密を作る夜
もらったシュシュを手首につけ、角度を変えては眺めながら、スパンコールの色の変化を楽しんでみる。



「ありがと。大事にする」

「おー。だからさ、髪切るなよ」


思わず驚いて、晴人を見た。

晴人はまた私の髪を梳いて、



「俺、長い方が好き」


と、言う。



どういう意味で言われたのかわからない。

ドキドキしすぎて、上手く頭がまわらなくて、思考が追い付かない。


しかし晴人は、そんなのそっちのけだ。



「おっ、除夜の鐘だ」

「え? あ、ほんとだ」


どこからともなく、鐘の音が聞こえてきた。



「ここで鳴らさないの? これってどこから聞こえてくるの?」

「多分、あっちの方にある本宮じゃね? 何か勉学の神が祀られてるとかで、ちょっと有名なとこ」

「えー? じゃあ、そっちに行った方がよかったんじゃない? 私たち、仮にも学生なわけだし」

「そうか? 俺は里菜子とふたりでここにきてよかったと思ってるけど」


晴人は、当たり前みたいにそう言った。


何だかなぁ、と思う。

私のことを『里菜子』と呼ぶ、この世で唯一の人。

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