きみと秘密を作る夜
帰宅すると、出掛けるところだったらしい母と、玄関先で遭遇した。
「あら、おかえり。おばあちゃんの様子、どうだった?」
「いつも通り。あんまり元気ないけどね」
「そう。困ったわね」
「お母さんは? また今日も夜勤? 最近、多くない?」
「仕方ないじゃない。人足りないし。それに、おばあちゃんも入院しちゃってお金かかるんだから、稼げるだけありがたいと思わないと」
「でもその所為でお母さんまで倒れちゃったりしたら、私どうすればいいの?」
「お母さんはそんなにやわじゃないわよ」
「ほんとに大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。あ、スープ作っておいたから、あたためて食べてね。それと、お風呂の掃除よろしく。いってきます」
「いってらっしゃーい」
バタバタと出て行く母を見送る。
もしも両親が離婚しなかったら。
もしも祖母が入院しなかったら。
不意にそんなことを考えてしまう自分が、ひどく嫌になる。