きみと秘密を作る夜
夕方。
一向に荷解きが終わる気配はないが、でも気分転換とばかりに、私は文句を言う母を無視して家を飛び出した。
坂を下った先に海があることは覚えている。
うろ覚えながらも道を進んで行くと、開けた場所に、海岸線が見えた。
少し傾いた陽の光を浴びて、水面がきらきらと輝いている。
潮風が心地いい。
「あー、体痛い」
伸びをしながら遊歩道にあるベンチに腰掛け、寄せては返す波を眺めながら、息を吐く。
高齢で、膝が悪い祖母が心配だったという母の気持ちはわかる。
それに母自身、離婚したのを機に、生まれ育った場所に帰ってきて、心機一転したかったのかもしれないし。
けど、でも、だからって、少しは私の気持ちとか考えないかな?
いきなり離婚するとか言われて、しかも引っ越しだの転校だのと、私には私の生活だってあったのに。
地元を離れ、友達と別れなきゃいけない寂しさもあるけれど、それよりも、父と簡単には会えない距離に置かれたことが、悲しくてたまらなかった。
「あーあ、何でこんなことになったんだろうなぁ」