きみと秘密を作る夜
夕方だというのに、まだまだ空は明るく、蝉の声がうるさく響いていた。
ひたいの汗を拭いながら帰宅した時、
「リナちゃん」
と、玄関前で呼び止められた。
声に、弾かれたように顔を向けると、儚げな美人が、スイカ片手に立っていた。
晴人の母だった。
「あのね、これ、いただきものなんだけど、うちじゃ食べきれないから、よかったらもらってくれない?」
「いいんですか? ありがとうございます。おばあちゃん、果物好きだから喜ぶと思います」
ありがたく受け取ると、晴人の母は間近でほほ笑んで見せた。
「やっぱり可愛いわねぇ、リナちゃん」
「え?」
「私ね、ほんとは娘がほしかったのよね。ほら、一緒に洋服選んだり、恋の話をしたり、夢だったのよ。もちろん男の子だって可愛いんだけどね」
私の母も、私と服を選んだり恋バナしたいとか思っているんだろうか。
よくわからずに、曖昧にしか笑えずにいたら、
「リナちゃんがお嫁さんにきてくれたら嬉しいのに」
と、とんでもないことを言われてしまった。