きみと秘密を作る夜
そこでふと頭に浮かんだ疑問。



「ねぇ、晴人のお父さんって何やってる人なの? 私、1回も見たことないんだけど」

「出張ばっかでいないだけ」

「そっか。それは大変だね」


私の両親は、仕事で忙しくしているうちにすれ違い、結果として離婚することになった。

だからただ単純に、晴人の両親のことが心配だったのだけど。



「別に。いなくても困らねぇし。あんなクソジジイ、さっさと死ねばいいんだよ」


吐き捨てるように言った晴人に驚く。



晴人はお父さんのことが嫌いなの?

と、聞こうと思ったけれど、聞けなかった。


声に、憎しみすらこもっている気がして、怖かったから。



よくよく考えてみれば、私は裸の晴人以外、何も知らない気がする。


晴人は、自分のことは何ひとつ話してくれない。

昔、サッカーをやっていたらしいけれど、それも人づてに聞いただけだし。



これだけ近い距離にいるのに、なのにちっともその心の内が見えないなんて。

悲しいけれど、人は、どんなに望んだって結局は、完全に誰かの所有物になることなんてないのだろう。



「里菜子」


急に呼ばれてはっとした。



「なぁ、夏休みになったら、花火しよっか」


先ほどとは打って変わったように、晴人の声はいつも通りに戻っていた。

だからやっぱり、聞かないでよかったと思った。



「そうだね。楽しみにしとくよ」


言わないってことは、言いたくないってことなのだろうから。

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