きみと秘密を作る夜
怒りのままに帰宅した私を、「あなたどこ行ってたのよ」と、母は鬼のような形相で迎えた。
「まったく、初日からそんなんじゃあ、いつまで経っても片付かないわよ」
「わかってるよ。疲れたからちょっと休憩したかっただけ」
「そんなこと言って、お母さん、週明けから新しい職場で働くことになってるんだから、それまでに終わらせといてくれないと困るのよ」
母の言葉に私は驚く。
母はいつだって事後報告だ。
「え? 仕事? もう決まったの?」
「警察署の近くの中央病院。人手不足だったらしくてね。ほら、先週、お母さんだけで一回こっちにきたでしょ? その時に面接して、その場で即採用」
看護師の母は、どこでも仕事を見つけられるらしい。
「これからは夜勤もすることになるけど、リナはおばあちゃんがいるから大丈夫よね?」
「……うん」
生まれ育った地元に戻ってきた母は、どこか嬉しそうだった。
と、いうか、離婚してから憑きものが取れたみたいにすら見える。
何だかなぁ、という感じだ。
「あぁ、忙しい。それでこっちはひと段落したし、これからご近所さんにご挨拶に行くから、リナもさっさと準備してちょうだい」
「私も行くの!?」
「当たり前でしょ。このあたりは、昔は田んぼばかりだったのに、私が出て行ってから、何軒か新しいおうちが建ったからね。知らない人も多いし。それに、ほら、リナだってご近所で新しいお友達ができるかもしれないじゃない」
「えー?」
私に『新しいお友達』ができれば不満はないとでも思っているのだろうか。
ほんとに勝手だな。
まぁ、もう、諦めるしかないのだろうけど。