きみと秘密を作る夜
靴箱で、私は深呼吸をした。
意識的に笑顔を作る。
向こうに麻衣ちゃんたちが見えた。
「あ、おはよー。見てこれー。階段から落ちちゃってさぁ、まいったよー」
笑いながら言ったのに、何だかみんなの空気がおかしかった。
私を見る目が、汚物に向けられたものみたい。
「え? 何? どしたの?」
顔を引き攣らせる私のところに歩み寄ってきた麻衣ちゃんは、刹那、右手を振り上げた。
パンッ、と乾いた音がする。
いきなり左の頬を張られ、反動でよろけそうになってしまう。
「嘘つき!」
「……は?」
「あんたのこと信じてた私がバカだった! 裏切り者! 死ねばよかったのに!」
金切り声で叫んで泣き出す麻衣ちゃんを、みんなが囲む。
殴られて泣きたいのは私の方だ。
ひたいの傷が開いたらどうしてくれるんだと思った。
「あのさ、痛いんだけど。っていうか、よくわかんないけど、階段から落ちて死にかけた人間に、『死ねばよかった』はないんじゃない?」
なのに、誰も何も言わなかった。
蔑むような無数の目が、私の一挙手一投足を監視する。