きみと秘密を作る夜
晴人の言った、『生きてる人間の方が怖ぇ』という言葉は、まさにその通りだと思う。
とても学校に行く気分にはなれなかった。
だけど、休めば余計に祖母を心配させてしまう。
サボったって、どこにいても誰かに見られている気がして、結局は、登校するよりほかになかった。
別にいじめられてるとかじゃない。
ただ、そこにいるのに存在してないみたいに扱われるだけ。
未だにここでの私は『よそ者』らしいが、それすら悲しいんだかどうなんだかも、麻痺した頭じゃもうよくわからなくなっていた。
私の左手のギプスは取れた。
まだ少し違和感は残るけれど、見た目だけなら元通りだ。
見た目だけなら。
「ねぇ、聞いた? ハルくん、矢野 美姫と付き合い始めたって噂」
「あー。あれマジなのかなぁ? 昨日、一緒にいたらしいね。矢野が自慢してたんだって? 麻衣、泣いてるし」
矢野 美姫は、学年で一番の可愛さで、その名の通り、黒くて長い髪がよく似合う、美しいお姫さまのような子だ。
嘘だと思いたかった。
晴人が、私以外の誰かと付き合うなんて、そんなバカなことはありえないと思いたかった。