きみと秘密を作る夜
とても授業に出られるような状態じゃなかった。
始業のチャイムが鳴り響く中、私はふらふらとあてもなく廊下を進む。
晴人に会いたい。
会って、ちゃんと顔を見て、その口から真実を聞きたい。
体育館裏に、晴人はいた。
「晴人……」
思わずその名が声になって漏れてしまう。
やっと会えたのに。
なのに、反応したように顔を向けた晴人の目は、ひどく冷めたものだった。
「何だよ。ストーカーかっつーの」
晴人が、私を、ストーカー呼ばわりした。
信じられなくて、でも一縷の望みを持って拳を作る。
「矢野さんと付き合ってるってほんとなの?」
「ほんとだよ」
いとも簡単に、それを認める晴人。
嘘だと言ってほしかったのに。
鈍器で殴られたような衝撃に、感情が追い付かない。
「何で!? どうして!? 私とのことが噂になってるから!? だから目くらましのためにだよね!? ほんとは矢野さんのこと、好きじゃないよね!?」
「好きだよ、美姫のこと」
やっぱり晴人は簡単に言った。
『好き』だなんて、嘘でも私には言わなかったのに。