きみと秘密を作る夜


とても授業に出られるような状態じゃなかった。

始業のチャイムが鳴り響く中、私はふらふらとあてもなく廊下を進む。


晴人に会いたい。

会って、ちゃんと顔を見て、その口から真実を聞きたい。



体育館裏に、晴人はいた。



「晴人……」


思わずその名が声になって漏れてしまう。


やっと会えたのに。

なのに、反応したように顔を向けた晴人の目は、ひどく冷めたものだった。



「何だよ。ストーカーかっつーの」


晴人が、私を、ストーカー呼ばわりした。

信じられなくて、でも一縷の望みを持って拳を作る。



「矢野さんと付き合ってるってほんとなの?」

「ほんとだよ」


いとも簡単に、それを認める晴人。


嘘だと言ってほしかったのに。

鈍器で殴られたような衝撃に、感情が追い付かない。



「何で!? どうして!? 私とのことが噂になってるから!? だから目くらましのためにだよね!? ほんとは矢野さんのこと、好きじゃないよね!?」

「好きだよ、美姫のこと」


やっぱり晴人は簡単に言った。

『好き』だなんて、嘘でも私には言わなかったのに。
< 94 / 272 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop