きみと秘密を作る夜
寒さに身震いしながら帰路についていると、家まであと少しというところで、近所のおばさんたちが井戸端会議をしている姿が目に入る。
「ねぇ、聞いた? 桜木さんのところ、離婚したんですって」
え?
思わず足を止めて、聞き耳を立ててしまう。
晴人の両親が、離婚?
「知ってる、知ってる。でもご主人、あまりお見かけしなかったわよねぇ?」
「ずっと、別のところにアパート借りて女の人と一緒に暮らしてたんですって。山内さんが見たって言ってたもの」
「まぁ、不倫? いやらしいわねぇ」
「ご主人は不倫で、息子はお騒がせでしょう? 恥ずかしいわよねぇ。私ならもうご近所に顔出せないわよ」
晴人の父は、よそに女を作っていた。
出張ばかりだと聞いていたが、実際は他にも家があったから、滅多に帰ってこなかったというわけか。
晴人は傷付いていないだろうか。
わからない。
私はもう、晴人のことなんて何もわからない。
たとえ辛い気持ちだったとしても、それを吐き出す相手は私じゃないのに。