嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
目をギュッとつぶって快楽の波に身を任せようとしたところで、チュッと音を立てて指から熱が消えた。

 こわごわと目を開けると、すぐに仁くんに強い力で抱きしめられる。

「悪い。怖がらせたな」

「怖くはなかったよ!」

 即座に否定する。

「怖く“は”?」

「え、う、あのっ」

 しどろもどろになる。怖いという感情はまったくなかったけれど、その他の感情について説明するのは抵抗がある。

 気持ちよかったとか、そんなの口が裂けても言えないよ。

「余計に眠れなくさせたかもな」

 仁くんは苦笑しながら私の頭を優しく撫でる。

「行きたいところ考えておいて。俺も考えておくから」

 深追いされなくてホッとしたけれど、本心を聞いてほしかった気もする。

 なんて面倒くさい女なの……。

「分かった。楽しみだね」

 返事の代わりに頬にキスをされる。

 こんなの絶対に眠れない。

 これまで長年片想いしていた相手と、一緒に暮らしているにもかかわらず平穏な日々を送れていたのは、幼馴染という立ち位置から抜け出せずにいたからだとキスをして初めて気がついた。
 
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