嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 
「おはよう」

 目が覚めて視界に最初に飛び込んできたのは、寝起きとは思えないほどスッキリした表情を浮かべた仁くんの顔だった。

 いつから起きていたのだろう。片肘をつきながら私を見つめている。

「お、おはよう。早いね」

 どぎまぎしつつ時計を見やると、アラームをセットしている時刻まで二十分もある。

「まだ寝ていていいよ」

「仁くんは?」

「俺は花帆を眺めてる」

「そんなの眠れるわけないじゃんか」

 仁くんは楽しげに口元を緩めた。

 手を合わせて拝みたくなるほどの美貌に息をするのを忘れそうになる。

 朝からご馳走様です……!

 両手で顔を覆って密かに悶えていると、「どうした?」と、吐息がかかる距離でつぶやかれた。うなじの辺りがゾクッとする。

「なんでもないよ。もう起きようかな」

 これ以上は心臓に悪い。

 早くこの場から逃げ出そうと上半身を起こしたところで、背後からぎゅっと抱きすくめられた。

「どど、ど、どうしたの?」

 突然の抱擁に驚いてめちゃくちゃどもった。

「いや、ちょっと」

 仁くんは猫のように首筋に顔を擦りつけてくる。

 ちょっと、なに!?
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