嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「ごめん、なにかな?」

「背中にゴミがついていたから」

 そう言って背中からなにかを摘まんだ仁くんの手には羽毛があった。布団から出たのがついたらしい。

「ありがとう」

 ぎこちなさが抜けぬまま、そそくさと廊下に出て深い溜め息をもらした。

 仁くんの言動にいちいち過剰に反応しちゃう。だって一日にして距離感が縮まりすぎなんだもの。

 こうなるのを望んではいたし、仲が深まってもちろん嬉しい。けれどあまりの変わり身の早さに気持ちが追いつかない。

 それからリビングに入ってきた仁くんと入れ替わるように、弥生さんのお手伝いをすると言って母屋にやってきたのだが、すぐに手持ち無沙汰になった。

 ソファに座ってスマートフォン片手にネットニュースを確認していると、綺麗に身なりを整えた仁くんがやってきて隣に座った。

 ちなみに朝霧家のカウチソファは五人掛け。体温が伝わってきそうなほど近い距離に座る必要はどこにもないわけで。

 落ち着かない。

 さっと立ち上がってキッチンにいる弥生さんの元に駆け寄る。

「あら、どうしたの?」

「作業するところ見学していていいですか?」

「鍋を掻き混ぜているだけよ? あっちで仁と一緒にゆっくりしていて」

 弥生さんは邪気のない笑顔を振りまいた。

 ううっ。ゆっくりなんてできないからこっちにきたのに。

 渋々引き返して、人ひとり分開けてソファに座った。仁くんはチラッとこちらを見たが、なにも言われなかった。

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