嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
どうしてこのタイミングでキスをするの?

 仁くんの行動はいつも予測不可能で私の頭を激しく混乱させる。

「んんっ」

 さすがにこの状況ではキスにのめり込むわけがなく。やんわりと熱い胸板を押し返した。

 びくともしない。

 口づけは深くなる一方で息継ぎをする暇も与えられない。

 あ、さすがにこれは。

 頭がくらくらしてきた。

 流されるままに熱いキスを受け止めていると、リビングから電話の着信音が鳴り響いた。

 ビクッと肩を揺らした私とは対照的に、仁くんは少しの動揺もみせない。しばらくの間しつこく鳴っていた音が留守番電話のアナウンスに切り替わる。

 ピーッという合図の後に流れてきた声は弥生さんのものだった。

『ふたりとも帰ってきていないの~? ご飯できたわよ~』

 場にそぐわないなんたる陽気な声。

 さすがの仁くんも動きを止め、気まずそうに私の肩から手をどけた。

「いきなり悪かった」

「あっ、うん。大丈夫」

 気恥ずかしさから顔を背けて答える。

「このまま行くか?」

「そうだね、待たせたら悪いし」

 すぐに外へ出て母屋へと向かう仁くんの後を追いかける。広い背中をどれだけ見つめても、先ほどのキスの意味をみつけられなかった。

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