嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 プロポーズをしよう。

 そういった大事なものをすっ飛ばしている。なによりもそれが一番男として情けないんじゃないのか。

 同時に、俺の生い立ちについて包み隠さず話そう。

「する前に、というか、結婚する前に花帆に言わなくてはけないことがある」

「改まってどうしたの?」

「今度出掛ける時に言うから、話を聞いて、それでも俺と結婚するか聞かせてほしい」

 花帆に触れていた時とは違う、嫌な感じの鼓動が頭にまで響いてくる。

 俺の感情が伝染したのか、真剣な顔つきになった花帆は神妙に頷く。

「分かった」

 言わなくてもいいと心のどこかで思っていたけれど、花帆を抱こうとしてやっぱりダメだと思った。

 隠し事をしたまま結婚話を進めるなんてフェアじゃない。

「もう寝よう」

 花帆は深追いせず、いつもの愛らしい笑顔を浮かべた。

 真実を話したら結婚話がなくなる可能性はゼロではない。

 もうこの手で花帆に触れられないと考えたら、胸をえぐり取られるようだった。
 
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