嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
*
翌日は早めに出社した。俺と同じように、早朝から練習をかねて作業をする日が多い阿久津くんが、いるかもしれないと思ったからだ。
予想通り、まだ人がまばらな工房で体格のいい背中を見つける。
「おはよう」
ごく自然に挨拶をすると、いつも通りの元気な声が返ってきた。
「おはようございます!」
俺以外の人間と話す時はここまで威勢がよくない。なんだろう。怖がられているのだろうか。
「少し話をさせてもらってもいいかな。作業しながらでいいから」
阿久津くんは表情を引き締めて重々しく頷いた。
あからさまに緊張されると話しづらいな。
桜餅の餡を詰めている阿久津くんの手元を眺めながら、できる限り明るい調子で話をする。
「昨日は感じが悪い態度を取ってすまなかった。驚かないで聞いてほしいんだけど、ここだけの話、花帆とは婚約中で」
すかさず阿久津くんは「え!?」と大声をあげる。
機械が稼働しているのでそこまで目立った声ではなかったけれど、それでも何人かの従業員が何事かと振り向いた。
それらの視線を目で制して、ひと息つく。
翌日は早めに出社した。俺と同じように、早朝から練習をかねて作業をする日が多い阿久津くんが、いるかもしれないと思ったからだ。
予想通り、まだ人がまばらな工房で体格のいい背中を見つける。
「おはよう」
ごく自然に挨拶をすると、いつも通りの元気な声が返ってきた。
「おはようございます!」
俺以外の人間と話す時はここまで威勢がよくない。なんだろう。怖がられているのだろうか。
「少し話をさせてもらってもいいかな。作業しながらでいいから」
阿久津くんは表情を引き締めて重々しく頷いた。
あからさまに緊張されると話しづらいな。
桜餅の餡を詰めている阿久津くんの手元を眺めながら、できる限り明るい調子で話をする。
「昨日は感じが悪い態度を取ってすまなかった。驚かないで聞いてほしいんだけど、ここだけの話、花帆とは婚約中で」
すかさず阿久津くんは「え!?」と大声をあげる。
機械が稼働しているのでそこまで目立った声ではなかったけれど、それでも何人かの従業員が何事かと振り向いた。
それらの視線を目で制して、ひと息つく。