嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「すみません」

「いや、いいよ。驚いてあたり前だから」

「香月さんからそのような話はまったく聞いていなかったので」

「花帆は内緒にしていたらしい。だからこの話も阿久津くんの心にだけ留めておいてもらえるかな」

「もちろんです」

「ありがとう。助かるよ」

 安堵して息を漏らすと、阿久津くんは何故かうれしそうに顔をにやつかせている。

 笑顔の意味が分からなくて若干不気味だ。

 花帆に迷惑がかからないといいんだけど。

「だから昨日ふたりが一緒にいるのを目撃して、てっきりふたりで出かけたんだと勘違いをしてしまって」

「えっ……ああ! そういう感じですか!」

 みなまで言わずとも俺の嫉妬心に気づいたらしい。

「大丈夫ですよ! そんなつもりはこれっぽっちもないですから!」

 大袈裟に顔の前で手を振る。

「後輩として可愛がってはいますけど、恋愛対象として見るにはまだまだ付き合いも浅いですし」

 昨日さりげなく可愛いと言っていたけど、本当にやましい気持ちはないのか?

「付き合いが深くなると恋愛対象として見る可能性があると?」

「いや! そうではなくて!」

 阿久津くんは目で確認出来るほど額に冷や汗をかいている。
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