嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
 あの人を憎んでなじって、どうして俺だけがこんな目にあうのか、そんなふうに激情の波に襲われる方がよっぽど人間味がある。

 元々の性格なのかもしれない。淡泊な面を持つ自分を昔から持て余していた。

 あの頃の俺は、いきなり父親と母親が変わってもちろん戸惑った。だからか祖父にはよくなついて、祖父も俺を可愛がってくれた。

 いつも祖父のそばから離れようとしなかった俺が、和菓子作りを学ぶのは自然な流れだったし、職人になって、朝霧菓匠に貢献したいと志すようになるまでに時間はかからなかった。

 杏太に代わって朝霧菓匠を継ぐことになって、これで恩返しになるから結婚は無理にしなくてもいいのではないかと安堵したんだ。

 それくらい家庭を持つことに憧れが抱けないでいたし、子供もいらないと思っていた。

 そう、花帆との結婚話が浮上するまでは。

「だから今日ふたりに話をしようと思ったんだ。相談もかねて」

「仁は花帆ちゃんと結婚して、温かな家庭を築きたいのよね」

「ああ」

「そう思っているなら心配しなくてもいいんじゃないかしら。家族ってひとりでは作れないのよ。花帆ちゃんがいて、可愛い子供が産まれたら仁の心も自然に変わっていくわ」

 そんな簡単なものだろうか。
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