嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
全面ガラス窓からはパノラマが見渡せた。日常からかけ離れた景色に緊張が嘘のように吹き飛ぶ。
「素敵……!」
胸の前で両手をぎゅっと握り締める。
もっと大人になるまで縁のない場所だと思っていたところに今、いる。
「やっぱり夜の方がいいな」
ガラスの向こう側に広がる景色を眺めながら仁くんが声を落とした。
「最近は日が長いし、辺りが完全に暗くなるのは八時とかになるか。花帆はもっと早くに夕飯が食べたいだろう?」
朝と昼兼用で弥生さんお手製のエッグベネディクトを食べたけれど、すでに小腹が空いている。
「早めに食べたいな。それに、ただでさえスイートルームで委縮しているのに、これで目の前に夜景が広がっていたら食事が喉を通っていかないよ」
「そうか。まあ、泊まりだから夜景はいくらでも見られる」
「……私も泊まるの?」
そもそもどうして家に帰らないの?
「あたり前だ。滅多にない連休だし羽を伸ばそう」
「着替えとかなにもないし、そんな急に言われても」
「必要なものはホテルのスタッフに言って全て用意させるから」
「ええっ、そんな」
「深く考えずに俺との時間を楽しんでほしい」
「……分かった」
仁くんのお願いならなんでも聞いちゃうよ。