嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
改めて気持ちを入れ替えた私は、まず仁くんのジャケットをハンガーに掛けて、それから部屋をひとつずつ回った。
部屋意外にも大理石のお風呂が備わっていて、そこからも景色が堪能できるようになってい
る。
高級感溢れる空間に感激しつつ、大きな不安が心を揺るがす。
お風呂のドアがすべてガラスなんだけど、入っているところが丸見えじゃない? どうするの、これ。
いつものように先に入ってもらって、奥のベッドルームに移動しておいてもらわないと。
非現実的な空間に一喜一憂している間、仁くんはウェルカムシャンパンをグラスに注いで飲んでいる。
「花帆も飲んでみる?」
細長いグラスのなかで小さな気泡がパチパチと弾けている。
「せっかくだし頂こうかな」
シャンパンを飲んだ経験がないので、少しの不安を残しつつも、言われた通り今を楽しもうと慣れない手つきでグラスを取り乾杯をする。かなり苦いけれど、大人な仁くんに近づけたような気がしてうれしくなった。
「無理して飲まなくていいからな。違うものを頼むか?」
私の些細な表情の変化に気づくなんて、しばらく離れていたとはいえやっぱり幼馴染なのだと胸がじんわり温かくなる。