嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「ごめんね。もう少し甘いと飲めるんだけど」

「分かった。度数も低いものにしよう」

「お酒そんなに弱くないと思う」

 お見合いの席でもけっこう飲めたし、その後に気持ち悪くなったりもしなかった。

「今日は酔っ払いになられると困るから」

 どこか真剣さを帯びた瞳に見つめられて心臓がドキッと鳴った。

「そ、そっか」

 いろいろ考えてくれるのはとてもうれしい。でもこの部屋でこれからどう過ごすのか、先が読めないから余計に緊張するんだよね。

 しばらくしてディナーが運ばれてきた。意外にもそれらは日本料理だった。

 欧風料理と選べるらしいのだが、日本料理の方を私が好むと思ったらしい。

 その通りなので、好みを把握してくれていることに喜びが胸に広がる。

 そして料理が本当に美味しい。シェフのお任せ料理の一つひとつに感嘆の声を上げ、残すところあとデザートのみとなったところで、部屋のドアをコンコンッと叩く音が響いた。

 ホテルスタッフかと耳を済ませていたが、いつまでたっても声は聞こえてこない。

 不審に感じていたら、仁くんがおもむろに立ち上がってドアに向かった。

 ドアを開けると、「よっ」と軽快な男性の声。

 ネイビースーツに身を包んだ背の高い男性が、仁くんを素通りして私の前まで歩み寄ってきた。

 ホテルの人? にしては雰囲気が違うような。
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