嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
スプーンでアイスをすくったまま動けずにいる私を見て、男性はにっこり笑う。
「初めまして。うちのホテルへようこそ」
「は、はじめ、まして?」
弾かれたように椅子から立ち上がって挨拶をする。
「食事中にごめんね」
誰? うちのホテル?
「おい、俺を無視するな」
仁くんが戻って来てぶっきらぼうに言い放つ。
「ん? ああ、久し振り」
私に向けた笑顔とまったく一緒のものを仁くんにも見せた。
「相変わらずだな」
「仁もな」
この僅かなやり取りからでも、ふたりが気心の知れた間柄なのだと伝わってきた。
改めて男性を眺めた。かなりカッコいい。
切れ長の奥二重の瞳が綺麗で妙な色気がある。すらっとした体型はモデルみたいで、仁くんと同じくらいの身長があるんじゃないかな。
「こいつは長谷川遼平。大学が同じだったんだ」
どうして長谷川さんがこの場にいるのかは置いておき、仁くんのお友達に初めて会ったのだ。まずはきちんと挨拶をする。
「そうなんですね! 香月花帆と申します!」
「あははっ。可愛い」
ナチュラルにサラッと可愛い発言したところを見ると、それなりに女性慣れしていそうだ。