嫁入り前夜、カタブツ御曹司は溺甘に豹変する
「初めて仁からお願いされたけど、こんな可愛い子のためだったのかぁ」

「言っておくけど俺のだからな」

 俺のって。言葉通りの意味だよね。

 口もとがニヤついてしまう。

「仁って好きな子にはそうなるんだな。すっげー意外。いいもの見させてもらったわ」

 仁くんは苦虫を嚙み潰したような顔をする。

 こんな顔をさせるなんて、長谷川さんある意味すごい。

「部屋を用意してくれたのは感謝する」

 いつもより仁くんの声のトーンが低い。

「“は”ってなんだよ」

「他に感謝するところないだろう」

 部屋? さっきの電話の相手は長谷川さんで、うちのホテルって言っていたから、ここで働いているのかな?

「花帆ちゃん、こんなぶっきらぼうな奴でいいの? 俺にしとかない? これでも一応ホテル御曹司だし、かなりお勧めだよ」

「え!?」

「黙れ。俺も老舗和菓子屋の御曹司だ」

「そうだった~!」

 長谷川さんはおかしそうにケラケラと笑った。

「もしかして、フローリデホテルの……」

「そうそう。でも跡継ぎは兄貴なんだけどね」

 開いた口が塞がらない。ここだけ別世界だ。
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